精霊16回日記。
(後日補完するかもしれませんけど暫定)
「ミナミちゃん!!」
新年、目覚めるなりに風奏はずいっとミナミの前へと迫った。
「……え、ええと、あけまして、おめでとうございます…?」
「あ、新年、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくね! …それで!」
「は、はい……?」
「あたしね。新年にあたって、一つやることを決めたの! あー、えっと、思いつきとかじゃなくって、ずっと考えてたことなんだけど……」
びよん、と寝起きでほどいたままの風奏の髪が跳ねている。だがミナミがそれを突っ込むより前に、ぐっとこぶしを握った彼女はその手を上げて、宣言した。
「あたし、このおうちから独立します!!」
「え? ……ええ!? え、あの、その……どうか、なさったんですか?」
唐突な宣言を聞いた娘は目を丸くして、うろたえたように周囲へと視線をやる。助け舟を出してくれるような相手は皆無であったし、たとえ誰かいたとしてもミナミと同じような反応を返すことしかできなかったのではないだろうか。
「えっとね……。ここにお世話になるようになってからもう随分と経つんだけど、やっぱりずっとここにいるとミナミちゃんにも迷惑かけちゃうかなって……。ほら、一人でゆっくり休みたいときとかあったりするでしょ? 料理とかもほとんど全部お世話になってるし……だからいい加減、あたしも一人で自立できるようにしなくちゃって」
跳ねた髪を揺らしながらそんな風に言う風奏に、部屋の主は幾度か目を瞬かせて、少し考えるようにしてから口を開く。
「そ、そうでしたか…、そんなお気になさらずとも…良いのですが……」
俯き加減の顔で目の前の少女の顔をちらりと見る。彼女は言葉を待っているようで、じっとそちらの表情を伺っていた。その様子からは、決断したことへの強い意志と、同時にそれについてミナミがどう思ったのかを不安に思う2つの気持ちがあるようだ。
しばらくの間瞳を閉じてしばらく前からの彼女の様子について何かを思いだしていたミナミは、色々と思い当たることがあったのか、小さく笑みを浮かべて目を開ける。
「あの、でも、ふーかさんはもうこの世界にも慣れておいでですし、…修行、されるのですよね? 集中できる環境に行かれるのは、良いと思います」
少し前、彼女が体調を悪くしたとき。
ヒルティールと彼女の間に、お互いのすれ違いから小さな不和が生まれていた。何かできることはないかと少女に色々と声をかけ、また、少女自身も他に色々な相手から話を聞いたりしていたという。
その結果、彼女は精霊の少年と肩を少しでも並べられるように、と自らを鍛えるということを選び、実践しはじめた。そうする中でお互いに腹を割った話でもあったのだろうか、2人の絆は以前よりも強くなったようにも思える。
風奏が、より成長を望むということであるのならば、確かによい機会かもしれない。
「私にもお手伝いできることがあれば、言ってください。少し、寂しくはなりますけど…」
顔を上げて微笑みかける。最初、やや不安そうに向けられていた瞳が、それを聞くとふうっという吐息とともに一旦閉じられ、笑みとなって返ってきた。
「…ミナミちゃんがそう言ってくれて、ちょっと嬉しい。そんなに遠くには行かないつもりで、今月中には住むところ見つけようと思ってるんだ。お金とかも……足りないぶんはアルバイトしてがんばるつもり!」
「困ったときには言ってくださいね?」
少しくらいなら融通できることもあるかもしれません、と続けるも、お金については自分でなんとかするから! と硬く拳を握る風奏。びよん、とまた跳ねた髪が揺れるのに、またくすりと微笑むと、小さく頷いて、
「はい。…でも今はとりあえず、髪にブラシを入れさせてもらってもいいですか…? そういう機会も、少なくなってしまいそうですから……」
「あ、うん。……ホントだ、ひどいことになってた……えへへ」
今更ながらに状態に気がついて、照れ笑いを浮かべる風奏。
ブラシとタオルを取り出して、その髪を梳いてやるミナミ。
新しい年は、こうして始まった。